満州は今日の中国東北地方一帯であった。日清戦争、日露戦争、満州事変を経てこの地域には、開拓団として多くの日本人が海を渡り生き抜いていた。それらも時代の流れと共に記憶、記録にだけ残ることとなっている。当時の記憶を残す人々もだんだん少なくなり、当時のことは歴史の中に消えてゆく。これらのラベルのホテルは全てもう無い。満鉄のヤマトホテルのように多大な資本を持つものとは違い、当時の旅行誌に記載されたホテル・旅館は殆どが個人経営的なものだったに違いない。その姿さえ殆ど見ることもなく消えていった。僅かに旅行誌等に記載された名前だけの、どんな経営者の元、どんな人が関わった宿だったのか、今更知ることも無いのだが、こうして記載された宿の色鮮やかなラベルを見るにつけ、あの時代は確かに存在したのだと実感させられる。誰がどのような旅の途中で得たものだったのか、それさえ知らずに紙片だけが残った。当時の宿のラベルを全て見ることは不可能である。旅行誌に載らないラベルさえ残っている。多くがモノクロ、セピア色の古い時代と興味を持ちにくいものなのだが、こうしたそれぞれのデザインされたラベルには個性があり、主張をしていたことがよく判る。実際に跡を辿ることはできなくても、当時の歴史を学び、知り、当時の旅人となって当時の風情を知ることは正しい歴史認識をもつ意味でも重要なことであろう。 |
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